現代の職場は、バブル世代、就職氷河期世代、そしてZ世代やα世代の入り口に立つ若手まで、かつてないほど多様な価値観が混在しています。こうした環境では、世代が違う社員同士の「当たり前」が衝突し、コミュニケーションに悩む方が少なくありません。
今回は、世代間のギャップを解消し、円滑な協力関係を築くための具体的な手法を詳しく解説します。
まずはじめに、世代間のコミュニケーションが難しくなる根本的な原因と、社会背景の違いが仕事観に与える影響について確認していきます。
世代間のギャップは、単なる性格の違いではなく、その世代が多感な時期にどのような社会情勢だったかに大きく起因します。
例えば、高度経済成長期やバブル期を経験した世代は、組織の成長と個人の豊かさが直結していました。そのため、長時間労働や組織への忠誠を厭わない傾向があります。一方で、生まれた時からインターネットが身近にあり、先行き不透明な時代に育った若手社員は、効率性やワークライフバランス、そして「個としての成長」を重視します。
背景の違いを無視したコミュニケーションを行ってしまうと、相手は価値観を押し付けられたように感じてしまい、さらに対立が深まることになります。
私たちは無意識のうちに、相手を特定のカテゴリーに当てはめて判断してしまいがちです。これを心理学では「ステレオタイプ」や「バイアス」などと呼びます。色眼鏡で見る、と表現したりもします。
上司に対して「考え方が古いから話が通じない」、若手に対して「何を考えているかわからない」と決めつけてしまうと、相手の言葉を正しく受け取ることができなくなります。世代間の問題に限らず、コミュニケーションにおいては前後の文脈や背景を読み解くことは非常に重要です。そして、この理解が難しいからこそコミュニケーションエラーが発生してしまいます。
世代間コミュニケーションを改善する第一歩は、こうしたバイアスを自覚する、ということです。目の前の相手を「一人の人間」として見ることを意識し、自分に対して、バイアスがかかっていないか?という問いをなげかける必要があります。
~Tips: ステレオタイプとは~
特定の集団に属する人たちに対して、多くの人が共通して持っている固定観念やイメージのこと。判断を簡略化するメリットがある一方で、個人の本質を見失わせる原因にもなります。
次に、Z世代やα世代の方に向けて、上司や先輩と上手くコミュニケーションをとる方法についてご紹介していきます。年配の社員が持つ価値観を尊重しながら、自分の意見を通したり、スムーズに仕事を進めたりするためのコツもあわせて確認していきましょう。
年配の社員にとって、これまでの経験は自尊心そのものです。新しい提案をする際に「そのやり方は古いです」と否定から入ってしまうと、相手は自己防衛のために心を閉ざしてしまいます。逆の立場で、先輩から「わかってないやり方だな」と言われたらショックを受けると思います。
そこで有効なのが、接客業やクレーム対応でも使われる、YESから入るコミュニケーションの手法です。まず相手の意見や経験を「確かに、これまではその方法で成果を出してこられたのですね」と受け入れます(YES)。その上で、「その経験を活かしつつ、今回はこのツールを使うことで、さらに効率が上がると思うのですがいかがでしょうか」と自分の意見を付け加えます。
この手順を踏むことで、相手は、「自分の意見を否定したのではなく、理解した上で何か提案をしてくれているんだな」と感じることができ、提案を聞き入れやすくなります。Yesから入るコミュニケーションは上司や先輩に限らず様々な場面に応用ができますので、身に付けておいて損はないでしょう。
世代が違うと仕事の手法で揉めることが多くなります。上司、先輩社員は経験からしか身に付けられないノウハウを持っていることも多いのですが、Z世代やα世代の方から見ると、一見非効率に見えるため、手法の理解は難しいかもしれません。しかし、仕事の目的は共通しているはずです。
意見が食い違った時は、「お客様に満足してもらう」「プロジェクトを期限内に終える」といった、双方が合意できる高い視点のゴールに立ち返りましょう。「目的は同じですが、そこに至るアプローチについて相談させてください」というスタンスを取ることで、敵対関係ではなく、課題を解決する協力者、として関係を再構築できます。
また高い視点を持つことは、視座を高くする、抽象度を上げる、などと言いますが、自分自身の考える力のスキルアップにもつながりますので、意識して取り組むことをおすすめします。
次に、団塊世代や氷河期世代、ベテラン層、管理者の方に向けて、若手社員との上手なコミュニケーション方法をご紹介します。どのようなコミュニケーションをとれば、若手社員はパフォーマンスを発揮し、主体性を持つのか。またどのようなコミュニケーションが離職を防止するのか、など確認していきましょう。
かつての職場では「背中を見て覚えろ」という文化が主流でしたが、現代の若手社員は「なぜこれを行うのか」という納得感を非常に重視します。この「なぜ」を解消するのは意外と簡単ではありません。適格な回答を提供できる説明力も重要になってきます。
例えば、単に「この資料を明日までに作っておいて」と指示を出すのではなく、「この資料は経営会議で使われ、来期の予算獲得に直結する重要なものなんだ。君の分析力が活きると思って任せたい」というように、背景と意義を明確に伝えてください。
ここで重要なのが、先ほどの説明では複数の「なぜ」を解消できているということです。まず、この資料をなぜ作らなければならないのか、に対するアンサーとして「経営会議で使われ、来期の予算~・・・」と伝えています。次に、なぜこの資料を作るのに頑張る必要があるのか、に対し「来期の予算獲得に直結する重要なもの」と温度感を伝えています。最後に、なぜ自分に頼むのか、に対して「君の分析力が活きると思って任せたい」と、あなたでなければならない、ことを伝えています。これらの「なぜ」は部下は口に出して言ってくれることはほとんどありませんので、自分で想像する必要があります。
もちろん、仕事において、この人でなければならない、という場面が必ずしも訪れるわけではありません。しかし「誰でもできる仕事だけどやっておいてね」と言われるよりも「君の〇〇を活かしてやってみてほしい」と言われた方がやる気も出ますし、いろいろと納得感もあるでしょう。細かい部分ではありますが、世代間コミュニケーションにおいては、この細部の積み重ねが非常に大きな影響を与えますので、意識して取り組んでいただきたい内容です。
現代の若手社員は失敗を極端に恐れる傾向があると言われています。これは、SNSなどで常に他人の目や評価に晒されて育ってきた背景も影響しています。ひとたび失敗するとSNSで叩かれ炎上し、一大事になる、ということを常に見せられてきた世代なのです。
指導の際は、失敗を責めるのではなく「改善のためのデータ」として扱う姿勢を見せることが大切です。「ここでは何を言っても否定されない」という心理的安全性が確保されて初めて、彼らは本音を話し、自ら動くようになります。
心理的安全性とは チームの中で、自分の考えや感情を否定される不安を感じることなく、安心して発言や行動ができる状態のことです。Googleの研究によって、チームの生産性を高める最重要の要素であることが明かされました。
ですが、心理的安全性を過度に気にしすぎて、必要なフィードバックも行えないとなると、生産性以前にミスや事故、手戻りが発生するなど、本末転倒な結果をまねくこともあります。必要なことはしっかり伝えなければなりませんので、世代間コミュニケーションについてしっかりと理解し、実践できる準備をする必要があるかと思います。
それでは、明日から現場で実践できる具体的な世代間コミュニケーションの手法を6つ紹介します。最初から全てを実施する必要はありません。実際に取り組めそうなものから着手してみてください。
世代が違うと、仕事に対する優先順位や幸福の定義が異なります。まずは「自分の常識は相手の非常識かもしれない」という前提に立つことがスタートです。
例えば、プライベートを重視する若手社員に対し、かつての猛烈社員時代の価値観で「若いうちは苦労を買ってでもすべきだ」と説いても響きません。逆に、若い世代の価値観で「プライベート重視」を一方的に押し付けても理解してもらえないでしょう。
相手が人生において何を大切にしているのか、安定なのか、成長なのか、自由なのか、を観察し、その価値観を否定せずに認める対話が、世代間コミュニケーションの土台となります。
具体的なコミュニケーションのステップとしては、まず観察をし何を大切にしているかを推測します。もし雑談などで実際に何を重視しているかを聞けると、最も良いかと思います。次にその価値観を否定せずに認めるということを「言語化」します。心の中で認めても相手に伝わらなければ解決になりません。そして価値観を認めつつ、自分の伝えたいことが伝わる文章を考えてみます。最後に実際に伝えて反応を観察しましょう。
最初は上手くできないかもしれません。ですが、「価値観を理解しようとしてくれている」「認めてくれた上で何か伝えようとしてくれている」ということは自然に伝わると思います。世代間の相互理解においては、たとえ小さな一歩だったとしても、この歩み寄りが非常に重要です。
一方的な指示やアドバイスは、相手の思考を停止させます。特に考え方が違うと感じる相手ほど、意識的に「問いかける」時間を増やしましょう。
「君ならどう進める?」「このプロセスについて、どう感じている?」とオープン・クエスチョンを投げかけることで、相手の思考プロセスを可視化できます。オープン・クエスチョンとは、Yes or No で答えられない質問のことです。
誰しも経験があると思いますが、自分の話を誰かに聞いてもらっただけで、なぜか気分が軽くなったり、気持ちが晴れたりするものです。相手の考えを丁寧に聞くことは、相手の存在そのものを承認することに繋がります。考えに対して、納得することはできなくても、「理解」することはできると思います。相手を理解すると、次に自分から相手へなげかける言葉やコミュニケーションが自然と変わっていくこともあるでしょう。
「ほめる」ことは、世代を問わず有効なモチベーション維持の手法ですが、世代によって「何に喜びを感じるか」が異なります。
若手社員からベテラン社員に対してほめる時には、これまでの経験や組織への貢献度を具体的に称えることが効果的です。「〇〇さんの手法でやってみたら上手くいきました」「〇〇さん主導のプロジェクトはやはり組織への影響が大きいですね」といった例が考えられますが、実際は思いつくのが難しいかもしれません。まずは「さすがです」のような相槌として使えるものから試しつつ、上司や先輩が組織へ貢献する実績を残した時に、改めて称える言葉を考えてみましょう。
一方で若手社員に対しては、結果だけでなく「その結果に至るまでの工夫」や「迅速な対応」など、プロセスや行動を即座に肯定することが重要です。「見てくれている」という実感が、組織への帰属意識を高めます。現代の若い世代は情報を集めることに長けているため、効率の良い方法を発見したり、より効果の高い手法を試すことがあります。これらを、従来の手法の裏切りだと捉えるか、革新的なチャレンジだと捉えるかで大きな分かれ目となります。もちろん、フィードバックが必要なこともありますが、まずはそのチャレンジ精神をほめる、ということを意識してみてください。
指導において最も配慮が必要なのが「叱り方」「フィードバックの仕方」です。感情的な𠮟り方は当然避けなければなりません。感情をぶつけるのではなく、改善を促すための事実にフォーカスしましょう。
特に、今の若手社員は人前で叱責されることに強い拒否感や恐怖心を抱く傾向があります。単に叱られるのが嫌なわけではないのです。他の人の目があるところで、叱咤されることをとても嫌だと感じています。これは何でも共有、拡散されてしまうSNSなどの現代特有の強い傾向とも考えることができます。叱られている自分を不特定多数が見るのではないだろうか、実際にそんなことは起こり得ないにも関わらず、根底にはその恐怖があるということです。
注意が必要な際は人目を避けた場所を用意しましょう。別室に呼び、具体的な事実や行動の改善策について伝えます。このとき、人格を否定する言葉は絶対に避けてください。フィードバックの際は、改善するために一緒に考えるというスタンスを徹底してください。後日、改善された際には必ずそれを認め、認めたことを本人にしっかり伝えることも重要です。
仕事への意欲、エンゲージメントを高める方法はいくつかありますが、その1つとして、「社会や組織の役に立っている」という実感を得る、ということがあります。
単なる作業依頼ではなく、その仕事が誰の笑顔に繋がるのか、どんな未来を創るのかという意味を添えて伝えてみましょう。特にデジタル化が進む中では、隣の芝生が青く見えるということもあり、自分が何のためにこの仕事をしているのか、を問うことも多いようです。
組織の中では、自分が行っている業務がいったい何に影響を与えているのか、見えづらいことも多いです。直接の関係者までは何となくわかるのですが、それより先の関係者になると、途端に解像度が下がり、自身の影響が分からなくなります。
上司、先輩社員から若手社員へコミュニケーションをとる時は、周りが意外と見えていない、ということを念頭において「あなたの仕事はこのような影響を与えているよ」という具体的な言葉をかけてみましょう。おそらく、知らなかった、ということが多々あると思います。些細な影響であっても、本人からすると仕事の実感が全く変わってきますので、ぜひ伝えてあげてほしいものです。
部下からベテラン社員に対しては、現場感を伝えるという方法があります。多くの若手社員の方は、実際にエンドユーザーと接する機会も多いはずです。利用者やお客様が実際に喜んでいた、助けることができたという生の声をそのまま届けてみましょう。
年長者への敬意を払うというのは、一見、若手社員の方から上司、先輩へ伝える場合のみ当てはまるものと考えがちですが、実際は年齢と立場が逆転していることも多いため、全ての方に当てはまります。
自分より年上の部下や、経験豊富な先輩と接する際は、年齢や役職に関わらず、その積み上げてきた「時間」と「経験」に敬意を払うことが不可欠です。現代の若い世代では一定、反論がある方も多いかと思います。先に生まれたというだけで敬意を払うべき、と言っているわけではなく、その人なりに仕事をこなし、日本社会の一員として働き、自分よりも多くの経験を持っている、という全体的な背景を含め「人間」として敬意を持つということです。
たとえ最新のITスキルでは自分の方が勝っていたとしても、彼らが持つ人間関係の構築術や業界の知識は貴重な資産です。「〇〇さんのご経験から見て、この案はどう思われますか?」と意見を仰ぐ姿勢を見せることで、相手は尊重されていると感じ、協力的な姿勢に変わります。敬意は、円滑なチーム運営の潤滑油となります。
まずは5分だけ、全力でその話を「素晴らしいですね」と聞いてあげてください。昔話をするのは、自分の価値を認めてほしいという承認欲求の表れです。十分に承認されたと感じると、相手はこちらの話を聞く余裕が生まれます。その後に「その粘り強さを、今のこのプロジェクトでも活かしたいので、ぜひアドバイスをください」と、現在進行形の話題に引き戻すのがコツです。
指摘と人格否定を明確に分けることが重要です。「君はダメだ」ではなく「この作業のこの部分を、こう改善してほしい」と、行動にフォーカスして伝えてください。また、注意の2倍から4倍、小さな良い変化を褒めるようにしましょう。褒めたことによる信頼の貯金があれば、多少の厳しい指摘も「自分の成長のため」と受け取ってもらえることが多くなります。
共通の趣味を探す必要はありません。相手の「仕事へのこだわり」や「最近気になっているニュース」を聞いてみるのが無難です。あるいは、「最近の若者の間で流行っているものを教えてほしい」「昔の業界の話を聞かせてほしい」と、相手の得意分野について質問者になるのが、最も簡単で効果的な雑談術です。共通の話題で友達になろうとする必要はありません。必要なのは歩み寄りであり、相手の価値観や背景を知りたい、教えてほしいという姿勢を見せることです。
世代が違う社員同士のコミュニケーションにおいて、最も大切なのは「相手を変えようとしないこと」です。価値観は、その人が生きてきた歴史そのものであり、簡単に変わるものではありません。
しかし、コミュニケーションの「手法」を変えることは今すぐに可能です。相手の背景を理解し、レッテルを貼らないこと。YESから入ること、「なぜ」を意識することなど、これらのステップを積み重ねることで、世代間ギャップは組織を強くする「多様な視点」へ変えることができます。まずは今日、違う世代の社員に、小さな問いかけから始めてみてはいかがでしょうか。
世代間の相互理解研修
Z世代に対する指導の仕方研修
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